「天皇杯 第51回日本車いすバスケットボール選手権大会」観戦会レポート

2026.03.27

2026年3月7日(土)、東京都のパラスポーツ普及事業「TEAM BEYOND」の一環として、「天皇杯 第51回日本車いすバスケットボール選手権大会」観戦会を実施しました。会場は、2025年10月に開業し、新たな舞台となった、TOYOTA ARENA TOKYO。解説の藤澤潔(ふじさわ きよし)さん、ナビゲーターの浅生鴨(あそう かも)さんとともに、富山県車椅子バスケットボールクラブ(富山県WBC) 対 神奈川VANGUARDSの準々決勝を観戦し、車いすバスケットボールの魅力を多角的に味わう一日となりました。

「天皇杯 第51回日本車いすバスケットボール選手権大会」観戦会レポート

全国から勝ち上がった16チームが、TOYOTA ARENA TOKYOへ

天皇杯は、車いすバスケットボールのクラブ日本一を決定する国内唯一の大会です。JWBFに登録されているチームは全国に72あり、今大会にはそのうち57チームが各ブロックの予選に参加しました。その予選を勝ち抜いた16チームがTOYOTA ARENA TOKYOに集まり、3日間のトーナメントで日本一の座を争いました。第51回となる今大会は、次の50年に向けた新たなスタートとなる大会でもありました。

「天皇杯 第51回日本車いすバスケットボール選手権大会」観戦会レポート

銀メダリスト藤澤潔さんといっしょに観戦

観戦会には解説として東京2020パラリンピック競技大会銀メダリストの藤澤潔さん、またナビゲーターとして作家の浅生鴨さんを迎えました。

藤澤 潔さん

藤澤さんの専門的でわかりやすい解説と浅生さんの親しみやすい問いかけは、スマートフォンを利用する観戦サポートシステム「チアホン」を通じて参加者に届けられました。会場ならではの迫力を味わいながら、ルールや戦術、プレーの見どころをリアルタイムで知ることができたことも、今回の大きな特徴です。

「チアホン」から「今日初めて車いすバスケを観戦される方、ちょっと手を挙げていただいてもいいですか」と呼びかけたり、参加者の質問を受けつけたりするなど「観戦会」ならではの取り組みも行われ、初めて車いすバスケットボールを観戦する参加者にも、競技の魅力が自然と伝わる時間となりました。

試合前のトークでは、もともとリハビリテーションや福祉の現場から始まった車いすバスケットボールが、今では「ガチのスポーツ」になっているとの話題が出ました。その言葉どおり、いまの車いすバスケットボールには、見る側も本気で応援し、プレーする側も本気で勝ちを目指す、競技としての熱量と面白さがしっかりと息づいています。さらに藤澤さんが、全国にクラブチームが広がり、それぞれが地域に根を張りながら活動していることにも触れると、浅生さんは競技の広がりそのものに驚きと敬意を示しました。

チアホンで解説を聞いていただきました
車いすのお客様も観戦

試合前の見どころ紹介

藤澤さんは、試合をより楽しむための基本的な見方を紹介しました。選手にはそれぞれ持ち点があり、コート上の5人の合計を14.0点以内におさめる必要があること、そして天皇杯では女子選手や健常者も出場できることなど、大会ならではの特徴をわかりやすく説明しました。ウォーミングアップ中の選手の車いすについたマークを示しながら「あれが持ち点です」と案内する場面もあり、初めて観る参加者にとっても入りやすい導入になっていました。

「監督はその都度電卓を叩くなどして、合計ポイントを計算されるんですか?」という素朴な問いに、藤澤さんは、持ち点の計算はもちろん常に意識しているものの、実際には選手の組み合わせパターンがあらかじめいくつも用意されていると説明。ただ、相手選手の組み合わせや、それぞれの場面でとりたい戦術、攻守のバランスまで含めて、臨機応変に考えることもあると話され、「監督は大変なんですよ」と笑いながら答えます。少しくだけたやりとりの中からも、車いすバスケットボールならではの戦術の奥深さが伝わってきました。

富山県WBC 車いすの背面に「持ち点」が示されている

「試合中はどこを見ると面白いですか」との問いに対して、藤澤さんは「ボールを持っている選手だけでなく、持っていない選手の動きにも注目してほしい」と応じます。車いす同士の位置取りで相手の進路をふさぐスクリーンプレーや、スペースの使い方を知ると、試合の見え方はぐっと変わります。そんな“観戦のコツ”が、試合前のやりとりの中で丁寧に共有されていきました。

準々決勝、富山県車椅子バスケットボールクラブ(富山県WBC)対 神奈川VANGUARDS を観戦

今回観戦したのは、富山県WBC 対 神奈川VANGUARDSの準々決勝です。前日の1回戦では、富山県WBCが新潟Wheelchair Basketball Clubに92-47で勝利し、神奈川VANGUARDSも岡山ウィンディアに80-31で勝って、この試合に進んでいました。神奈川VANGUARDSは、昨年まで天皇杯を3連覇した強豪チームです。しかし、日本代表メンバーでもある主力の3人の選手が海外リーグに挑戦中で、今年の天皇杯には出場しません。大会前の記者会見では「残ったメンバーで優勝に向けてどう戦っていくべきかということを、1年を通して話し合い、これまで以上にコミュニケーションを重ねてきた」と語っていました。対する富山県WBCは、若い選手が次々と加入して戦力がアップ、昨年の天皇杯はベスト4まで進出。大会前には「今年も2人の若い新メンバーが入り、ほかのチームに負けないくらい走りこんできた」と語り、昨年のベスト4を超える成績を虎視眈々と狙います。藤澤さんも「どちらが勝つかわからない良いカード」と優勝を目指す両チームの熱戦を期待します。

第1クォーター 神奈川VANGUARDSが先行

試合は、第1クォーターから神奈川VANGUARDSが落ち着いた入りを見せました。ボールを急がせず、空いた場所を見つけながら攻撃を組み立て、守備でも富山県WBCに気持ちよく走らせません。浅生さんが「あの選手の役割はなんでしょうか?」「今のプレー、すごいですね。技術的には難しいのでしょうか?」などと言葉を差し込むたびに、藤澤さんがその意味を一つひとつほどいていきます。

神奈川では、塩田理史(しおた さとし)選手や丸山弘毅(まるやま こうき)選手を軸に得点が重なり、さらに宮本涼平(みやもと りょうへい)選手がパスカットからそのままレイアップまで持ち込む場面もありました。宮本選手について藤澤さんは、1.0点のローポインターでありながら、ボールを奪ってそのまま得点までつなげる技術の高さを紹介していました。神奈川の得点が積み上がる一方で、富山県WBCは守備からリズムをつかもうとしますが、神奈川の動きは崩れません。第1クォーターは23-12。神奈川VANGUARDSが、まずは自分たちの試合の形をコートに描いた印象でした。

神奈川 丸山選手[5]
神奈川 宮本選手[17]のシュート

第2クォーター 追い上げる富山県WBC

第2クォーターに入ると、富山県WBCも反撃の色を強めます。川上将生(かわかみ しょう)選手の連続得点をきっかけに点差を縮め、このクォーターは富山県WBCが16-15と上回りました。神奈川VANGUARDSが先に広げた差を、富山県WBCが一つずつ削っていく。その流れに引かれるように、会場の視線も次の一本へ、次の一本へと集まっていきます。前半は38-28で神奈川VANGUARDSがリードして折り返しましたが、富山県WBCの粘りによって、試合はさらに緊張感のある展開になっていきました。

富山 川上選手[5]のシュート

「ぶつかったらやっぱり痛いですよね」という率直な質問に、藤澤さんは、接触そのものは強い痛みというより振動に近いもの、吹き飛ばされたり転倒したりした場合には危険もあると説明しました。さらに、「転んだときに自力で起き上がることも大切な技術で、競技を始めたばかりの頃にはその練習を何度もやらされました。いやでした」と笑いを交えて振り返っていました。競技の激しさと、その裏にある地道な積み重ねの両方が見えるやりとりでした。

ハーフタイムの振り返り

ハーフタイムには前半を振り返りました。神奈川VANGUARDSの落ち着いた試合運びと、富山県WBCの機動力、そして後半にどこがポイントになるのかが、会話の中で整理されていきます。参加者からは海外での応援文化についての質問も出て、藤澤さんが、ヨーロッパでは地域に根ざしたにぎやかな応援文化があることを紹介する場面もありました。試合そのものだけでなく、車いすバスケットボールを取り巻く世界の広がりにも触れられる時間となりました。

第3クォーター 神奈川VANGUARDSが再びリードを広げる

後半に入ると、第3クォーターで神奈川VANGUARDSが再び点差を広げます。塩田理史選手が得点とリバウンドで存在感を見せ、丸山弘毅選手も得点だけでなくアシストで攻撃をつなぎながら、試合の流れを神奈川へ引き戻しました。宮本涼平選手も引き続き得点に絡み、神奈川VANGUARDSの攻撃を支えます。富山県WBCも追いすがりますが、神奈川VANGUARDSはボールを持っていない選手の動きやリバウンドへの入り方も含めて崩れず、第3クォーターは18-10。スコアは56-38となりました。点差以上に、このクォーターでは神奈川VANGUARDSの落ち着きが際立って見えました。

選手が車いすを持ち上げる独特の動きを行うと、藤澤さんは、あれが片輪を浮かせて高さをつくる「ティルティング」という技術だと紹介し、ジャンプの代わりのように使われる大切な動きだと説明。実際にそのプレーを見ながら聞く解説は、とてもわかりやすいものとなりました。

リバウンドの競り合い 神奈川 塩田選手[16]

第4クォーター 最後まであきらめない富山県WBC

第4クォーター、富山県WBCは最後まであきらめません。岩田晋作(いわた しんさく)選手が後半に入ってシュート力を発揮するのに加え、春田賢人(はるた けんと)選手も持ち味を見せ、富山県WBCらしい勢いがもう一度戻ってきました。第4クォーターだけを見ると15-13と富山県WBCが上回っており、点差があっても簡単には終わらせない強さが感じられました。得点差を追うだけでなく、最後までプレーの密度が落ちなかったことも、この試合の見どころの一つでした。

攻撃に転じる富山 岩田選手[23]
富山 春田選手[9]のシュート

一方、神奈川VANGUARDSは大きく崩れず、試合を締めにいきます。「VANGUARDSはゆっくり攻めていますね」と浅生さん。これに対して藤澤さんは、終盤はクロージングの時間帯であり、急ぐよりも、しっかり組み立ててスペースを使い、相手の守備を動かしながら確実に形を作ることが大切だと解説しました。タイムアウトについては、単に流れを切るだけではなく、メンバー変更後の攻守の確認や、次にどこを狙うかを整理するための時間でもあると藤澤さん。そうした落ち着きも含めて神奈川VANGUARDSの強さが見え、試合は69-53で終了しました。

試合を動かした選手たち

試合を通して、神奈川VANGUARDSでは塩田理史選手が22得点13リバウンド、丸山弘毅選手が19得点15アシスト、宮本涼平選手が16得点を記録しました。一方の富山県WBCも、川上将生選手の連続得点で前半に追い上げを見せ、後半は岩田晋作選手、春田賢人選手を中心に最後まで粘り強く戦いました。数字だけでなく、それぞれの選手がどんなふうに試合の流れに触れていたかが、会場にいるとよくわかる試合でもありました。

試合後は交流会、銀メダルに触れる場面も

試合後には、藤澤さんを囲んで交流会が行われました。車いすバスケットボールを実際にプレーしている子どもから「どうすれば強くなれるか」という質問が出たほか、「どんな筋トレをしてるんですか?」といった疑問も寄せられ、会場は和やかな空気に包まれました。海外での経験について質問が向けられる場面もあり、観戦後ならではの関心が自然に会話へとつながる、貴重な時間となりました。

さらに交流会では、藤澤さんが持参した東京2020パラリンピックの銀メダルを参加者に披露し、実際に触れられる機会もありました。目の前の熱戦を見たあとに、トップアスリートがつかんだメダルの重みを実感する。そんな体験が加わったことで、交流会はより印象深いひとときとなりました。

「天皇杯 第51回日本車いすバスケットボール選手権大会」観戦会レポート

参加者の声

参加者アンケートには、「解説を聞きながら観戦できたのが面白かった」「チアホンでルールもよくわかった」「見やすい席で観戦できた」「迫力とスピード感がすごかった」「初めての観戦でも楽しめた」といった声が多く寄せられました。また、「生で見るとやっぱり迫力が違う」「また参加したい」といった感想もあり、会場で観ること、そして解説を聞きながら理解を深めることの両方が、満足度の高い体験につながったことがうかがえます。

観戦会を終えて

今回の観戦会では、TOYOTA ARENA TOKYOという新しい舞台で、天皇杯準々決勝の熱気を間近に感じながら、車いすバスケットボールの面白さをさまざまな角度から味わうことができました。藤澤潔さんのわかりやすく奥行きのある解説、浅生鴨さんの親しみやすいナビゲート、そして交流会での直接のやりとりを通して、参加者は試合の迫力を味わうだけでなく、競技をより深く楽しむための視点にも触れることができました。

リハビリテーションの一環として始まった歴史を持ちながら、今では全国のクラブチームが日本一を目指して真剣勝負を繰り広げる車いすバスケットボール。その魅力と熱量を、会場で実感できる一日となりました。

なお、大会最終日の3月8日(日)には決勝と3位決定戦が行われ、決勝では埼玉ライオンズが神奈川VANGUARDSを66-47で破り、初優勝を果たしました。TOYOTA ARENA TOKYOで初開催となった「天皇杯 第51回日本車いすバスケットボール選手権大会」は、多くの熱戦とともに幕を閉じました。

TEAM BEYONDの観戦会は、パラスポーツを「見る」「知る」「感じる」きっかけをつくる場として、今年も多くの発見に満ちた一日となりました。試合の迫力に心を動かされ、言葉によって理解が深まり、交流によって距離が縮まる。そんな観戦会ならではの魅力が、参加者のみなさんにしっかり届いた一日でした。

20260327

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