【TEAM BEYOND CONFERENCE】

TOKYOが築いたパラスポーツ支援の現在地

– 企業の実践が生み出した5年間の変化とこれから –

TEAM BEYOND CONFERENCE 開催レポート

東京2020パラリンピックから5年。企業のパラスポーツへの関わりは、単なる「応援・支援」にとどまらず、組織文化、人材育成、事業や商品・サービス、地域との共創へと広がっています。2026年9月15日、ロサンゼルス2028パラリンピック開幕まであと700日でもあるこの日、ステーションコンファレンス東京で【TEAM BEYOND CONFERENCE】を開催しました。

今回登壇したのは、アクサ・ホールディングス・ジャパン株式会社、日本電気株式会社(NEC)、日本生命保険相互会社、株式会社アシックスの4社。東京2020を一つの節目に、それぞれがパラスポーツとの関係をどう深め、何を変え、どのような価値を生み出してきたのか。具体的な実践と、活動を継続していく上での率直な課題が共有されました。

開催概要

テーマ
TOKYOが築いたパラスポーツ支援の現在地
– 企業の実践が生み出した5年間の変化とこれから –
日時
2026年9月15日(火) 14:30~18:00
会場
ステーションコンファレンス東京 5F(東京都千代田区)
構成
事例紹介(約25分×4社)/東京都等からの情報提供/交流会(約60分)
登壇者
アクサ・ホールディングス・ジャパン株式会社
日本電気株式会社(NEC)
日本生命保険相互会社
株式会社アシックス
イベントページ
詳しい講演内容や登壇者情報はこちらより

4社の実践から見えた『現在地』

キーワードは、「体験から組織文化へ」「支援から価値創出へ」「単独の取組から共創へ」。

東京2020のレガシーを“残す”だけでなく、企業活動や地域社会の中で“使い、育てる”段階へ進んでいることが、4社の事例から浮かび上がりました。

事例紹介① アクサ・ホールディングス・ジャパン株式会社

登壇者

土井 恵氏執行役員 サステナビリティ&エンゲージメントコミュニケーション本部長

川村 怜選手コミュニケーション・ブランド&サステナビリティ
ブラインドサッカー男子日本代表主将

テーマ

インクルーシブな組織文化を育むために
〜20年にわたるブラインドサッカー支援と従業員エンゲージメントの実践〜

20年の支援を、一過性で終わらない「組織文化」へ

アクサが日本ブラインドサッカー協会(JBFA)の支援を始めたのは2006年。JBFAが掲げる「ブラインドサッカーを通じて視覚障がい者と健常者が当たり前に混ざり合う社会を実現すること」というビジョンに共鳴したこと、また、声を掛け合い、異なる役割を持つ仲間を信頼してチームでゴールを目指すブラインドサッカーの競技特性が、インクルーシブな社会を象徴するものだと考えたこと。それらが、支援を継続してきた大きな理由でした。

冠大会である「アクサ ブレイブカップ ブラインドサッカー日本選手権」へのメインサポーターとしての支援に加え、従業員による大会運営ボランティア、試合観戦、社内体験会などへ活動を広げ、競技を「知る」だけではなく「体験する」「応援する」「一緒に活動する」機会を継続的につくってきました。特に2021年の東京パラリンピックを契機に、その関わりは一部の社員の活動から、より多くの従業員が参加するものへと広がりました。体験会を入口に試合観戦やボランティアへ進むなど、関心が一過性で終わらない循環が生まれているといいます。

20年の積み重ねを語る土井氏(左)と、アスリートとしての観点から捉える川村選手(右)

川村選手が語ったのは、「挑戦を応援してくれる仲間がいる」という実感です。社内で行われるブラインドサッカーの体験会を通じて、「見えない中でプレーする難しさ」や「声を掛け合う大切さ」への理解が深まり、その先にある『相手に配慮しながら、他者を理解しようとする意識』が高まっている。そうした一人ひとりの意識や行動の積み重ねが、相手を理解しようとする姿勢や、多様な価値観を尊重するカルチャーの醸成につながっていると紹介しました。

活動は社内にとどまりません。自治体との連携協定を生かし、愛媛県や兵庫県での体験会、特別支援学校での講演など、地域社会にも広がっています。20年という長い支援の歴史が示したのは、支援を継続することにとどまらず、従業員が関わり続けられる「体験」を設計することで、パーパスが日々の行動に息づき、組織文化の醸成につながっていくという学びでした。

事例紹介② 日本電気株式会社(NEC)

登壇者

青木 一史氏コーポレートコミュニケーション統括部 社会価値コミュニケーショングループ
プロフェッショナル

テーマ

NECが模索する、企業におけるパラスポーツ支援のあり方
~社会価値の創出と人的資本の強化を両立するために~

「なぜ続けるのか」を問い直す。支援から“価値を生む活動”へ

NECのパラスポーツ支援は、1991年の車いすテニス大会への協賛から始まりました。車いすテニス支援は2026年で36年目。東京2020大会をきっかけに始まったボッチャ支援も10年目を迎えています。長い歴史を持つ一方、青木氏は講演冒頭から、あえて「模索する」という言葉を掲げました。

東京2020を契機に企業のパラスポーツ支援が大きく広がった一方、大会後には活動を縮小・終了する動きも見られます。NEC自身も同じ岐路に立ったとして、「良い活動だから」「長年やってきたから」だけでは、企業としてリソースを投じ続ける理由にはならないと率直に説明。ブランド向上や社員の誇りといった効果も、パラスポーツ支援だけの成果として切り分けることは容易ではなく、参加者数や露出数などの数字だけで活動の意義を説明することにも限界があると投げかけました。

そこで示されたのが、「支援する」から「活用する」への発想の転換です。 パラスポーツ支援そのものを目的にするのではなく、NECが目指す社会の実現に向けた手段として位置づけ、社会課題の解決で得た知見を事業や人材の成長につなげる。社会価値と企業価値を同時に生み出すことで、活動を持続可能なものにしていく考え方です。

その具体例として紹介されたのが、社員の専門性を社会課題解決に生かす「プロボノ」です。東京都障害者スポーツ協会との連携では、都内の障害者スポーツ競技団体を対象に、社員の知見を生かしたSNS活用勉強会を実施。競技団体が抱える「普及・情報発信まで手が回りにくい」という課題に、企業が資金だけでなく専門スキルで関わる形を示しました。

さらに、川崎市立川崎総合科学高等学校との取組では、高校生とNECグループ社員が、遠隔操作できるロボットランプ(※)を共創し、移動が難しい人でもオンラインでボッチャを楽しめる仕組みを開発しました。社員にとっては専門性を社会課題に生かす経験となり、高校生にとっては技術で課題を解決する実践的な学びになる。パラスポーツを起点に「社会課題解決」と「次世代育成」を重ねた事例です。

※ボッチャ用勾配具(ランプ)を遠隔地のパソコン、タブレット等を使い、現場にあるランプの左右の方向転換、ボールの上下位置(高さ)の調整、およびボールの投球(リリース)をリモートで行えます。

講演の最後に青木氏が挙げたポイントは、「これまで通り」からの脱却、社会価値と企業価値の創出、そして企業・自治体・競技団体などによる連携の3点。支援の継続を目的化せず、「なぜ自社が取り組むのか」を問い続ける姿勢そのものが、これからの企業支援に必要だと語りました。

事例紹介③ 日本生命保険相互会社

登壇者

小田切 雄太郎氏サステナビリティ経営推進部 スポーツプロモーション担当部長

テーマ

日本生命のスポーツ取組について
~全国47都道府県に広げる「支えあいの輪」~

「応援・支援」から地域共創へ。全国のネットワークを社会価値につなげる

日本生命は、生命保険業の根幹にある「共存共栄」「相互扶助」と、スポーツが持つ「人を元気づける力」や「応援する・支える力」に親和性を見いだし、長年にわたりスポーツに取り組んできました。現在は、競技・アスリートを支えるだけでなく、スポーツを通じて未来世代の健全な成長、健康増進、地域活性化、DE&Iの浸透、環境課題への意識醸成などにつなげることを目指しています。

パラスポーツとの関わりは、2015年の東京2020ゴールドパートナー就任を契機に本格化。大会に向けては、従業員の応援参画を通じてパラスポーツへの共感や意識変容の基盤をつくり、大会後はそのレガシーを「地域共創」「多様性の社会実装」へと発展させてきました。この変化を、「応援・支援」から『地域と共に社会価値を創る取組』への進化として捉えています。

その象徴の一つが、JOC・JPCと取り組む「~地球は、おっきなフィールドだ。~『SPORTS DAY』by TEAM JAPAN×日本生命」です。小学生を対象に、地域にゆかりのあるアスリートとスポーツを体験し、環境や社会課題について学ぶ機会をつくり、2028年に向けて47都道府県での展開を目指しています。競技の普及だけに目的を置かず、健康、未来世代、DE&I、地域、環境といった複数の社会価値を一つのプログラムの中で結びつけている点が特徴です。

また、車いすバスケットボールの「CONNECT LOCAL PROJECT」では、全国の支社が自治体や小中学校と連携し、体験会や講演会を開催。2021年の開始から全国36回、約4,600人が参加しています。さらに、5人制、3人制、車いすバスケットボールなどカテゴリーの垣根を越える「ALL BASKETBALL ACTION」も展開し、競技の魅力を伝えることと、DE&Iの考え方を全国に広げることを両立させています。

全国に広がる拠点と地域とのつながりを生かしながら、競技団体、自治体、学校、企業などを巻き込み、地域課題の解決につなげていく。東京2020後の5年間で、日本生命の取組は「企業がスポーツを支える」形から、『スポーツを媒介に地域と一緒に価値をつくる』形へと広がっていきました。

事例紹介④ 株式会社アシックス

登壇者

大谷 忍氏パラスポーツ企画部 部長

新保 大和選手人事部 組織・人財開発チーム
パラ陸上競技(円盤投 F37)

テーマ

「一緒に働く」から始まる共生社会の実現
~アシックスにおける社員パラアスリートとの挑戦~

「一緒に働く」ことから、支援する・される関係を越える

アシックスは、東京2020以降に高まった機運を具体的な行動につなげるため、2022年1月にパラスポーツ企画部を設立。「Innovation(事業革新)」「Branding(ブランド価値)」「Inclusive Culture(企業文化)」の3つを柱に、パラ・デフスポーツを企業活動の中に組み込んできました。

「Innovation」では、パラ・デフアスリートとの対話や共同開発を通じて、多様なニーズをものづくりやサービスに反映。片足単位での販売など、「特別な人のため」ではなく『誰にとっても使いやすい』商品・サービスへと視点を広げています。「Inclusive Culture」では、社員がパラスポーツを自分ごととして体験する機会を重視。神戸2024世界パラ陸上では、約2,100人の社員が観戦し、約300人がボランティアに参加したほか、パラスポーツ指導員の資格取得や手話教室なども継続しています。

そして、3つの柱をつなぐ重要な存在として紹介されたのが、社員パラ・デフアスリートです。社員として日常的に一緒に働くことが、障害を特別なものとして捉えない意識を育て、商品・サービスや社内文化の変化にもつながる。単に競技活動を「支援する対象」として位置づけないところに、アシックスの特徴があります。

アシックスの挑戦。築いてきた想いを熱量をもって伝える大谷氏(左)と新保選手(右)

新保選手は、「仕事×競技×発信」を切り分けず、循環として捉える考え方を紹介しました。 競技で身につけた挑戦する力や目標達成への思考を仕事に生かし、仕事で得た学びを競技へ返し、その経験を社内外に発信して価値を還元する。パリ2024パラリンピックで4位、2025年世界選手権で銀メダルという競技実績を持ちながら、人事部の社員として働く新保選手の言葉は、「アスリート雇用」を福利厚生や応援の枠で捉えない視点を示しました。

大谷氏が最後に示したのは、「共生社会は支援ではなく、共創から始まる」という考え方です。支援する・されるという一方向の関係ではなく、「共に働く」「共に挑戦する」「共に成長する」。その日常の積み重ねこそが、誰もが活躍できる社会につながると締めくくりました。

交流会 ― 「連携がカギ」を、次のアクションにつなげる場に

4社の事例紹介後には、会場を移して約1時間の交流会を実施しました。登壇者と参加者、参加者同士が名刺交換や情報共有を行い、各社の取組についてさらに質問したり、自社が抱える課題や今後の連携可能性について意見を交わしたりする姿が見られました。

今回の講演では、NECから「企業、自治体、競技団体などの連携がカギ」との提起があり、日本生命やアクサの地域社会との連携、アシックスの「共創」の考え方など、4社それぞれから“自社だけで完結させない”実践が紹介されました。交流会は、そうした講演内容を参加者自身の次の一歩へつなげる時間となりました。

交流会の様子
交流会で意見交換する参加者
交流会で資料を見る参加者
交流会のパラスポーツコンシェルジュ
参加者同士の交流の様子
参加者が資料を見る様子
登壇者の記念撮影

東京2020から5年。パラスポーツ支援は「続ける」から『価値を育てる』段階へ

4社の取組は、それぞれ方法も歴史も異なります。一方で共通していたのは、東京2020を一過性の到達点ではなく、その後の活動を見直し、深めるための起点として捉えていることでした。

社員が実際に競技に触れることで、理解を組織文化へ変えていく。企業が持つ専門性やネットワークを使い、社会課題の解決と人材・事業の成長を重ねていく。競技団体や自治体、学校、地域の人々とつながり、一社では生み出せない価値を共につくる。パラスポーツとの関わり方は、協賛や応援という枠を越え、企業のあり方そのものに問いを投げかける取組へと広がっています。

「なぜ自社がパラスポーツに関わるのか」。 その問いに、自社ならではの答えを持ち、活動の価値を社員や社会と共有し続けること。ロサンゼルス2028パラリンピックまで700日となったこの日に、4社の実践が示したのは、東京2020パラリンピックのレガシーを“残す”だけではなく、次の価値へと“育てていく”ための多様な道筋でした。

アーカイブ映像

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20261013

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